T 書体フォント(以前は GT 文字セットとして知られていた)について

T 書体フォントのニュース記事が不満

T 書体フォント(GT 文字セット)については、非常に意義のあるものだと思うし、無償公開だなんて、太っ腹、素晴らしい、と諸手を上げて喜ぶのだけど。

でも、ニュース記事については、不満あり。
T 書体フォントがもっとも威力を発揮するのは、学術研究分野(学術研究の基礎となる書籍データの電子テキスト化)であるはず。なのに、なぜか、どの記事も、漫画の「あ゛」とか、戸籍の電子化とか、そういったことを前面に出している。

はっきり言うが、漫画の「あ゛」やら戸籍やらを対象にしているのならば、12 万字も集める必要はない。時間と労力の無駄だ。

T 書体フォントの土台

※GT 明朝をご存知のかたは、読み飛ばしてください。

T 書体フォントの土台になっているのは GT 明朝で、これはかなり古くからの取り組み。GT 明朝の目指すところが、「ゆたかな文字文化を創りあげるために」というページに書かれている。これを読めば、「戸籍」や「漫画」は本道ではないことがわかる。

T 書体フォントのうち「漫画」「戸籍」関連は何文字?

この GT 明朝に、以下を追加したものが、今回の「T 書体フォント」である。→MYCOM PC WEB 東大・坂村研究室、約35万文字の漢字フォントを無償公開

  • 江戸時代および中国の宋・明・清時代の文献から抽出された漢字、34,499 字。
  • 金文研究のための「金文釈文文字」、661 字。
  • 変体仮名や、マンガの表現に見られる濁点仮名(「あ゛」を1文字で表したものなど)など非漢字文字、1,814 字。

このうち、記事で強調されがちな「漫画」や「戸籍」に関連するのはどれかというと、主として三番目の 1,814 字である。追加した 3 万 5 千文字のうちの、1,814 字だけ。

もちろん、中国の宋・明・清時代の文献から子供の名前をつける人もいるかもしれないけど、そういう目的で中国の文献を調べたわけではないだろう。さすがに。

そんなわけで

そんなわけで、ニュースの記事は、研究者のみなさんが苦労して集めた T 書体 12 万文字の意義を、伝えてはいないと思うのだ。そういうのって、ちょっとひどいんじゃないかと思う。

でも、発表の場が TRONSHOW みたいな場所だったから、しかたなかったのかなあ。